4.多原子分子の回転スペクトル

 通常の二原子分子の回転運動エネルギーは,原子間距離の関数である1個の慣性モーメントすなわち回転定数によって決められるので,そのスペクトルは図11-3に示したように比較的簡単である。

しかし,直線分子を除く一般的な3原子以上の多原子分子の回転スペクトルは相当に複雑になる。

それは回転エネルギーが2ないし3個の回転定数の関数になっているためである。

 図11-8に示したのはH2O分子のHOH変角振動に伴う回転遷移を含む振動回転スペクトルであり,一見,規則性のない非常に複雑なスペクトルである。

しかしこの場合にも,理論に基づいて解析すると比較的規則性のあるパターンの重なりになっていることがわかる。

H2O分子の場合にはスペクトルの解析によって,互いに直交する三つの軸のまわりの慣性モーメントを決めることができ,これからO‐Hの距離とHOHの結合角を決めることができるのである(図6-1参照)。