6.遠隔測定(ムービー11-8

 分光法は電磁波を(波長(振動数あるいは周波数)の成分に分けて)検出することである。

測定する対象は必ずしも手元にある必要はない。

すなわち遠隔測定が可能である。この利点を応用した様々な測定が行われている。

 たとえば,焼却炉の煙突から出る煙に分光器を向けると,そこから赤外線が放射されていることがわかる。

この赤外線を数10〜数百m離れた地上から測定して分光することにより,そこに含まれる化学物質を同定できる。

太陽光からの赤外線を地上で分光すると,連続的な強度分布を背景として,特定の領域に振動回転遷移の吸収線が観測できる。

これは太陽を光源として大気中の分子の分光をしたことになる。

このようにしてCO2やCH4分子などの地球温暖化に関連する化学種を,フルオロカーボンやHCl分子など成層圏でのオゾン破壊に関連する化学種を,窒素酸化物などの光化学スモッグに関連する化学種を,さらにSO2などの酸性雨に関連する化学種を検出して,定量ができるのである。

大気環境のモニタリングに分光法を用いた遠隔測定は,必要不可欠の手段となっている。(パターン11-19,11-20,11-21)(ムービー11-9

分光法の対象は地球上のものに限らない。

天文台では数百から数10万光年の彼方からやってくる電磁波を捉える。

宇宙空間のなかでは比較的温和な環境にある暗黒星雲の中で,あるいは星が生まれている周辺の空間でどのような分子が作られているかが研究されている。(パターン11-16,    11-17,11-18

図11‐11は400光年の彼方にあるおうし座の暗黒星雲からやってきた“分子の手紙”である。(パターン11-15

現在,約100種の宇宙の分子が確認されている。また生命素材分子の探索も精力的に行われている(以上放送教材参照)。

おわりに

 マイクロ波あるいはラジオ波の測定は,現在の物理的測定法の中で最も正確で精度の高い測定であり,おおよそ9桁の数値を決めることができる。

したがって,マイクロ波分光による回転エネルギーの決定がもっとも精度・確度の高い測定といえよう。

比較的小さい分子の構造が非常に精密に決められるのはそのためである。

 測定の周波数が非常に精密・正確に決められるということは,比喩的にいうと広大な太平洋の中に浮かぶ小さなボートの位置をぴったりと観測できることに等しい。

特定の分子のスペクトルが測定によってひとたび決められると,次回以降は多くのスペクトル線の中に現れたその分子を同定できることになる。

場合によると,たった1本のスペクトル線でもそのスペクトルを与える分子が何であるかを疑問の余地なく決めることができるのである。

演習問題

問11‐1:図11-3のスペクトルと表11-1の値を用いてCO分子の原子間距離を求めよ。

問11‐2:CO分子のJ=0→J=1の遷移はどこに観測されると予想されるか,周波数単位で答えよ。

問11‐3: H35Cl()に対するの振動波数の同位体シフトを予測せよ。またからの回転定数を予測せよ。ただし,原子量は次のとおりである: