4.おわりに

 レーザーの優れた特徴を生かして,ほかの光では実現できない数々の科学的・技術的進歩がなされてきた。

レーザー光はまた,分子の動的過程を研究するときに大きな力を発揮している。

しかしレーザー自体がまだ新しいものであり,開発途上の面を多くもっている。

われわれはまだレーザーの可能性をすべて汲み尽くしているわけではない。

レーザー装置そのものも,またレーザーを使うことによって発展する科学と技術も,まさに日進月歩の状態にある。

たとえば,いま進められている全固体レーザー(気体や液体のようなレーザー媒体の交換などの保守の必要のない,すべてが固体で作られたレーザー)の開発は,レーザーをもっともっと使いやすいものにするであろう。

赤外部の波長可変レーザー(反応中間体などの微量の分子や遊離基などの振動分光が高感度でできる)はいま急速に進歩しつつある。

また現在,量子力学の原理にもとづいて物質の波動性とレーザーのコヒーレント性とを組み合わせて,化学反応の進み方や半導体の中の電子の動きなどを思いのままにコントロールしようという「コヒーレントコントロール」によって化学反応の選択性を高め,不必要な副反応をできるだけ減らそうという考え方が,サイエンスの非常に大きな流れを産み出しつつある。

レーザーは量子力学の原理を私達に身近なものにし,有用な技術を産み出すためのかっこうな媒体であるといえる。

レーザーにはこれからも,現在の私達の想像を超えた新しい使い方がいろいろと開けていくであろう。

演習問題

問13−1.基底状態(エネルギーをとする),励起状態(エネルギーをとする)にある分子数を各々,とする。吸収と誘導放出のそれぞれの確率を用いて(1)がボルツマン分布で与えられたとき,(2))<の反転分布が実現しているとき,の各々について,正味の吸収あるいは誘導放出の強度を求めよ。ただし,光子の密度をとする。またここでは自然放出を無視する。

問13−2.エキシマーレーザー(波長248nm,1パルス当たりのエネルギー250mJ,パルスの波長幅10nm,繰り返し5Hz)について,平均出力と尖頭出力を求めよ。ただし,光パルスは10nmの間,一定強度の矩形パルスであると仮定する。

問13−3.ある蛍光性分子の溶液(濃度)の10mlをにパルスレーザーによって光励起し,全分子の1000分の1が励起されたとき,500ns後に励起状態に残っている分子の数を求めよ。ただし,この分子の蛍光寿命は25nsであるとする。