3.液晶の構造と物性(ムービー15-5

 ほとんどすべての物質は,温度の高低によって固体,液体,気体という三つの状態(相)をとることがよく知られている。

しかし,棒状の分子からなるある種の物質は,固体(結晶相)とふつうの(等方性液体あるいは等方相とよばれる)液体との間で,液晶とよばれる状態をとる。液晶状態は,身のまわりの画像表示材料として広く用いられている。(パターン15-9

この状態にはいくつかの種類があり,細かくわけると30種類にも達するが,そのうち主なものを図15‐7に示す。(パターン15-10,15-11

 等方相では,分子の向きも位置も乱雑である。これに対し,(a)のネマティック(N)相では,棒状分子が配向して(棒の向きを揃えるように並んで)いるが,分子の重心位置は無秩序である。

また,(b)‐(d)の三つの状態では,それぞれ分子が層を作っている。この三つは,まとめてスメクティック相とよばれている。

棒状分子が層に垂直に向いたものをスメクティックA(SmA)相,傾いている場合をスメクティックC(SmC)相という。

分子の形が右手と左手のように区別できる場合(不斉)は,SmC相において双極子モーメント(第5章参照)を分子の短軸方向に持ち,すべての層で向きが揃うので,強誘電性を示す。
(パターン15-11,15-12

層ごとの向きが一つおきに逆向きに揃った(反強誘電性を示す)液晶も知られており,スメクティックCA(SmCA)相とよばれている。

このような,液晶相における分子の集合状態は,第14章で学んだ分子間相互作用によって決まる。

量子化学と有機化学の知識を総合的に用いると,分子の性質を制御して強誘電性あるいは反強誘電性を持つ液晶相を創り出し,多様な機能を発現させることができる。

 液晶を電極で挟んで電場をかけると,分子は電場に応答して向きを変える。

この性質を用いて様々な表示素子(ディスプレイ)を作ることができる。

今までのところ,スメクテイック相を透明電極に挟んだものが多く用いられているが,「斜めから見にくい(視野角)」とか「動きの速い絵が表示できない(応答速度)」などの問題をかかえている。

機能性を持つ液晶である反強誘電性液晶を用いた次世代の高精細,広視野角のデイスプレイも実用化されつつあり,原理の発明から開発まで純国産の技術の一つとして注目されている。