3.無機高分子




 無機化合物でも単量体が重合して高分子化合物を与える。

このときは重縮合が起こる場合が多く,とくにオキソ酸の脱水縮合による高分子生成が重要である。

代表例としてリン酸とケイ酸イオンを取り上げる。

(1)ポリリン酸



 無機化合物のうちで,単量体と重合体を直接観察できる例はリン酸の場合だけといってもよい。

リン酸H3PO4はオルトリン酸とも呼ばれ,粘性の大きい液体で四面体構造をもつ。

これが脱水縮合を起こすと図6-5のようにP-O-P結合ができ二量体である二リン酸H4P2O7,三量体などが生成する。



三量体には鎖状の三リン酸H5P3O10と,シクロ三リン酸H3P3O9(トリメタリン酸ともいう)があり,さらに縮合の進んだ場合は色々の構造の化合物ができる。

しかしこれらは分子量が小さくて高分子化合物とはいえない。

二リン酸や三リン酸を純枠に得るにはリン酸塩を用いて別な反応を利用する。

 オルトリン酸を加熱すると脱水縮合が起こり,粘性の大きい生成物を与える。
これは強リン酸と呼ばれ,分子量の異なる鎖状重合体の混合物である。

高温になって粘性の小さくなった強リン酸中では他の媒質中ではみられない特殊な反応が起こる。

例えば硫酸塩や有機硫黄化合物を二塩化スズと熱すると,定量的に硫化水素を与える。

 鎖状に長く縮合の進んだ高分子ポリリン酸イオンは(PO3)nn−の組成をもつ。

このアルカリ金属塩水溶液にニッケル塩水溶液を加えると,緑色のゲル状沈澱が生成し,これを取り出して引っ張るとチューインガムのように伸び,高分子物質らしい性質が見られる。(映像)

(2)ケイ酸塩



 純粋なケイ酸H4SiO4は取り出せない。

ケイ酸ナトリウム等の水溶性ケイ酸塩の溶液に酸を加えた時沈澱するのはゲル状のコロイドで,これを乾燥しても組成一定の化合物は得られない。

しかしこのもとになるケイ酸イオン(SiO44−,オルトケイ酸イオンともいう)の塩は自然界に広く分布している。

 自然界特に地球表面付近はケイ酸塩の世界といってもよいほどケイ酸塩は多く存在しているが,それらをケイ酸イオンの構造に基づいて分類すると図6-6のように整理される。



この分類は普遍的に存在する造岩鉱物を鉱物学で分類する方法にも関係が深い。

単独のイオンとしてカンラン石族の鉱物を造るのはSiO44−だが,これが線状につながったものにSiO32−,Si4O116−があり,それぞれ輝石族,カクセン(角閃)石族の鉱物を与える。

さらに縮合が面内に広がるとSi2O52−の組成となり,雲母族鉱物を形成するが,これらは薄くはがれやすい。

末端の-O-がなくなって,すべてSi-O-Siの共有結合で3次元に結び付いたのが二酸化ケイ素SiO2である。

これらに共通な構造として,Si原子周りはほぼ正四面体であるが,-O-部分は色々の角度をもつものがあり,ケイ酸塩の多様性の原因となる。

二酸化ケイ素の各変態も異なる∠SiOSiをもつ。

 分子量の大きい縮合ケイ酸イオンのSi原子の一部をAl3+イオンで置き換えたものがアルミノケイ酸イオンで,その塩が長石族として自然界に広く分布している(AlSi3O8のカリウム塩は正長石を造る,図6-7)。



 遊離のケイ酸は得られないけれども,このように縮合ケイ酸塩は地球の主成分といってもよい。

ケイ酸イオンの縮合が進むに伴い,Si原子1個当たりが担う負イオン価は減少する。

すなわちケイ酸イオンが単独,鎖状,平面,三次元と変化するにつれて,Si1個当たりの相手陽イオンの電荷数は減少し,カンラン石がSi1個でMg2+2個を必要としたのに,雲母ではSi2個でMg2+1個で電荷が中和されている。

縮合の進んだケイ酸イオンの場合ほど鉱物,さらにそれがつくる岩石中での金属イオン含有量が少なくなる。

このことは地球ことに地殻の元素組成を考える場合に重要な要素である。

(3)ガラス



 ガラスは二酸化ケイ素,炭酸カルシウム,炭酸カリウム,炭酸ナトリウムなどを高温に熱して反応させ,二酸化炭素を追い出して得られる固体状物質であるが,結晶せず,粘性の高い液体とみなすべきである。

硬くて透明であり,安価に得られるし耐薬品性もかなり高い上,加工成形が容易なため大量に生産され広く用いられている。

その構造は縮合ケイ酸塩と同様,Si-O-Si-Oの三次元網目結合をもつが,配列は不規則であり,また所々で切れていて未端の-SiO-をもつ(図6-7)。

この負電荷が相手陽イオンで中和されている。

 ガラスは日常的な製品だけでなく,特殊なものは光学機械,工芸品にも活用されている。

とくに鉛,バリウムを多く含むと屈折率が高くなって輝きを増す。

また光学レンズにはケイ素の代わりにゲルマニウムを含むもの,陽イオンとしてランタノイド元素(第14回)を加えたものなどがあり,独特の用途を満たしている。

透明度を極限まで大きくしたガラスの繊維(グラスファイバー)は光通信に用いられるが,これは情報を光に変えて遠距離に誤りなく送る目的で,利用が最近広がりつつある。


 資料提供 九州大学理学部名誉教授 大橋 茂
          分子科学研究所助教授  渡辺 誠
          広島大学理学部助教授  関 一彦



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