3.格子欠陥




(1)点欠陥と不定比性



 イオン結晶は単結晶でも決して完全なものではなく,程度の差はあっても常に不完全なものである。

結晶の不完全性については金属の構造について述べたが(p.111),イオン結晶において特に重要なのは点欠陥で,これは結晶の格子点に存在すべきイオンが欠けている場合である。(図8-6)



イオン結晶中で電荷の中和は必ず保たれる。

点欠陥には2種類がある。イオン価の変わらないイオンにおいては,陰・陽イオンが対になって欠落を生じる場合(ショットキー型)も,イオンが格子点から移動して格子点以外の位置を占める場合(フレンケル型)も,両イオンの原子比は変わらない。

陽イオンの一部のイオン価が高くなった場合には,陽イオンの点欠陥を生じて電荷の中和が保たれることがある。

この時は陰陽イオンの原子比が非整数になる(格子欠陥型不定比化合物)。

歴史的に有名なドルトンとべルトレーの間の「定比例の法則」論争はこれに関するものであった。

(イオン結晶では,格子点の一部を別種のイオンが占めるために生じる不定比化合物がある。

例えば三斜晶系の炭酸カルシウムのCa2+の一部がMg2+で置換され,その度合によって,Ca/Mg比の異なる結晶を生じる。

これらは固溶体型不定比化合物という。)

(2)格子欠陥の熱力学的考察



a.格子欠陥の生成 

格子欠陥は結晶生成の速度や実験方法の巧拙によって生まれるものではなく,熱力学的に必然的に生じるものである。

結晶中で点欠陥を生じることはイオンを格子の外へ押し出すことで,そのためにはエネルギーを吸収する。

一方,結晶格子が乱れることは自由度の増加つまりエントロピーの増加につながる。

点欠陥が生まれる程度はそのバランスできまる。

温度上昇に伴って点欠陥数は顕著に増加する。

ショットキー型欠陥は格子エネルギーの小さい結晶,つまり1価イオンからなる岩塩型結晶に生じやすい。

 フレンケル型格子欠陥は格子点の間にイオンを収容しやすい結晶つまり配位数の小さい場合に生じやすく,閃亜鉛鉱型,ウルツ鉱型などに多い。

ある結晶がショットキー型フレンケル型両方の欠陥格子を持つことは比較的まれで,工ネルギー的に容易な欠陥を主に与える。

b.不定比化合物 

この生成もまた熱力学的な必然性を持つ。

p型半導体として有名な酸化ニッケル(U)をみよう。

この緑色化合物は融点約1960℃の反強磁性体(p.209)であるが,最も定比に近いものでも0.3%のニッケル欠損を持ち,組成式はNi1-xO(0.003<<0.17)で示される。

酸素の存在下においてニッケルの一部は3価イオンとなり,式(8.5)の平衡が成立している。

  4NiU(s)+O2[]4NiV(s)+2O2−+2V     (8.5)

sは固相を,Vは陽イオンの空格子点を示す。
各物質の濃度を角カッコで,酸素圧をp(O2)で示すと平衡定数は式(8.6)のようになる。

  =[NiV]4[O2−]2[V]2/[NiU]4p(O2)     (8.6)

3価ニッケル量はきわめて少ないので,2価ニッケルおよび酸化物イオンの濃度は一定とみなしうるし,電荷中和のためには,3価ニッケル2個につき空格子点1個を生じるから,式(8.6)は(8.7)になる。

  ’=[NiV]6/4p(O2)            (8.7)

’は平衡定数であるから,酸素圧と温度に依存し空格子点が生まれる程度は,熱力学的に決定される。

不定比化合物を生じやすい条件は次のようにまとめられる。

@)格子欠陥ことにショットキー型欠陥を作るのに必要なエネルギーが小さい。

これはマデルング定数の小さい岩塩型にみられる。

A)電価の差によるイオン半径の差が小さい。

これは結晶に大きい歪みを作らないことを意味する。

B)イオン価を高めるのに要するイオン化エネルギーが小さい。

A),B)の条件は遷移元素イオンによって満たされやすい。

実際不定比化合物は遷移元素の酸化物および硫化物に多くみられる。

一方,結晶の成長させかたによって結晶格子の不完全さを生じることもあるが,その程度は実験方法により大差があり,簡単にまとめることは困難である。

(3)格子欠陥に基づくイオン結晶の導電性



 格子欠陥の生成によってイオンが動きやすくなり,導電性を増すが,この時,温度上昇とともに電気抵抗値は減少する。

これには格子欠陥の増加とイオン易動度の増加と両方の寄与がある。

(塩化ナトリウムと塩化カリウムの融点付近における固体電気抵抗は,〜101および〜102Ωmである。)

 一方,分極の著しいイオン結晶,特に閃亜鉛鉱型,ウルツ鉱型のものでは半導体になるものがある。

電気抵抗の温度係数は負であるが値は大きく,イオン電導とは異なった機構による。

このような化合物は成分元素の電気陰性度の差が小さい。

(通常1以下)なお,ヒ化ニッケル型のイオン結晶には金属性電導を与えるものもある。

(例;セレン化バナジウム,電気抵抗の温度係数は正。)

     資料提供 東京大学物性研究所教授 武居 文彦



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