4.ポリマーアロイの相図・相分離



 最近は,異種の高分子鎖がミクロなスケールで共存した高分子多成分系であるポリマーアロイの研究が盛んである.

ポリマーアロイの定義は,図10-8に示すようなもので,異種の高分子鎖どうしが共有結合で連結したブロック共重合体,グラフト共重合体,さらに異種の高分子どうしを混合したポリマーブレンドなどからなる.




ブレンドも,物理的なブレンドの他に強い分子間相互作用によって錯体をつくるポリマーコンプレックス,ブレンドと同時に化学反応も加わった化学的ブレンドなビ様々である.

このような複雑な系とする理由は,高分子材料に図10-9のような多くの特性を期待するためである.




 基礎的に見ると,ポリマーアロイの系が,均一混合系か相分離系か,相分離系であればどのような高次構造をとるかという問題に帰着する.

これを支配しているのは,ポリマーアロイの熱力学である.つまり,ポリマーアロイの系が一定温度T,一定圧力pのもとでの状態を議論すればよい.

このときの適当な熱関数はギブズエネルギーGで,系の内部エネルギーをU,エントロピーをS,エンタルピーをHとすれば,

          (10.10)

で書ける.

たとえばポリマーブレンド系の安定性を見るには,混合前後の変化ΔGmixを求めればよい.

つまり,

        (10.11)

ここでΔGmix ≦ 0であれば,何らかのかたちでポリマーブレンドでは二成分が溶け合う.

 高分子系でΔGmixを求めるには,ΔGmix,ΔHmix等をどう計算するかという問題になる.

多くの試みが行われているが,格子モデルを用いたフローリー(P.J.Flory)/ハギンス(M.L.Haggins)/スコット(R.L.Scott)の理論によると,

        (10.12)

と近似される.

ここでRは気体定数,Nは系内のモノマー単位に換算したセグメントの数,m1, m2は高分子1,2の重合度,φ1, φ2は高分子1,2の体積分率である.

(10.12)式の特徴は,ΔSmixの混合に対する寄与は,重合度に逆比例して小さくなってしまうところにある.

一方,ΔHmixは,高分子1,2間の相互作用パラメーターχ12を用いて,

              (10.13)

と近似できる.

よって,次の量gの挙動から相溶性について議論できる.

      (10.14)

 図10-10に,ポリスチレン(PS)とポリビニルメチルエーテル(PVME)ブレンド系の相図例を示す.




ここで,PVMEの分子量は約5万で一定とし,PSの分子量は高温側にある曲線から,約1万,2万,5万,10万,20万と変化している.

高分子ブレンドの相図の特徴は,低温側で相溶し,高温側で相分離するという下限臨界共溶温度(LCST)型相図が現れる場合が多いことと,相図に分子量依存性が生ずることである.

 また,相分離に際しては,ビデオ教材に示したように,(10.14)式の組成に関する2次微分にもとづき,スピノーダル分解や核生成と成長による相分離が起きる.



特に高分子系では相分離挙動が高分子の粘性のため金属やガラスの系よりゆっくり起き,しかも高分子間の分子間相互作用が起きる範囲が低分子系より広いので,光学顕微鏡で直接観察可能な大きさの構造が見られる.

 以上を高分子混合系の基礎間題として熱力学的な立場からまとめると,図10-11のようになる.

図で,平衡と書いたのは,平衡状態の熱力学として扱えるもので,非平衡と書いたのは,非平衡の熱力学として扱わねばならないものである.

いずれにしても,一見複雑なポリマーアロイの問題も,熱力学的に整理でき,各分野とも基礎,応用の両面から多くの研究が活発に行われている.






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