3.電極における化学変化の原子論的考察
(1)電極反応の過程
ダニエル電池を構成する半電池の電極で起こっている変化は次のように解折することができる.
(実際の現象としては全体として式(lO.6)の変化が認められるのであって,次のような段階的な変化が実際にみられるわけではない.)
陰極:a.金属亜鉛→亜鉛原子(気化熱を吸収)
b.亜鉛原子→亜鉛2価イオン
(T次,2次イオン化エネルギーを吸収)
c.亜鉛2価イオン→亜鉛2価水和イオン
(水和エネルギーを放出)
陽極:d.銅2価水和イオン→銅2価イオン
(水和エネルギーを吸収)
e.銅2価イオン→銅原子
(1次,2次イオン化エネルギーを放出)
f.銅原子→金属銅(気化熱を放出)
一方,標準水素電極では次の変化が起こる.
g.水素分子→水素原子 (解離熱−結合エネルギ−を吸収)
h.水素原子→水素イオン (イオン化エネルギーを吸収)
i.水素イオン→水和水素イオン (水和エネルギーを放出)
(2)電極反応に伴うエネルギー変化
上記各段階の変化にはカッコ内に示したような反応熱の変化が伴う.
それと同時にエントロピー変化(ΔS)をも生じる.
エントロピーに関する詳細は別の科目で扱われるが,ここでは反応に関与する原子・分子・イオンなどの自由度と理解しておけばよい.
[エネルギー/絶対温度]の次元を持つ量で,通常Jmol-1K-1単位で示される.
a,f,gのような結合の解裂が起こると,原子は自由に運動できるようになるから Sは増加する(値は正).
イオンの水和が起こるとイオンも水分子も運動が不自由になるのでΔSは減少する(値は負).
系のギブス自由エネルギーへの寄与をみると,負のΔH(反応が発熱的)と正のΔSがΔGを減少させ,正のΔH(吸熱的)と負のΔSがΔGを増加させる.
例として水素の半電池を取り上げる
(単位はkJmol-1、エントロピーはJmol-1K-1)
水素分子の解離熱 +218
それに伴うエントロビー増 +115
H→H+のイオン化エネルギー +1311
それに伴うエントロピー変化 〜O
H+の水和エンタルピー -1127
それに伴うエン卜口ピー減 -130
これらの総和を式(10.12)で計算した値が標準水素電極電位に当たるが,対NHEで示す時はこれを0とする.
一方亜鉛などの金属元素の側でも次の各段階ごとのΔHとΔSの変化を式(10.12)で計算した値と水素半電池のそれとの差が対NHE標準電極電位に対応する.
亜鉛の融解熱,気化熱,気化に伴うエン卜口ピー増
Zn→Zn2+、のイオン化エネルギーとエントロピー変化
Zn2+の水和エンタルピーとエントロピー減
実際のデータを求める過程では,標準電極電位が比較的正確に求めやすいためその測定値から水和エンタルピーやエントロピーを求めることもある.