第14章  先端材料をめぐって




 人類は古来色々の材料を利用して文明を築いてきたが,近代文明の発展は新材料の開発に先導されてきたといってもよいほど先端技術と新材料は不可分の関係にある.

近代社会の要求する材料の性質を整理して行くと,物質を構成する原子─元素─の種類に負う部分とその組合せに依存する場合が明瞭になる.

特殊な性質を示す物質の構成元素には,産出の少ない元素─希元素─が重要な意味をもつことが多い.

今回は希元素の一種である希土類元素に焦点を合わせて,磁性を中心に先端材料の世界をのぞいてみよう.

1.先端材料に求められる性質



 今日文明社会で,材料に求められる性質を表14-1にまとめた.



近代的工業社会が生まれるまでは,材料といえば構造材,つまり力を支える材料が主であった.

産業革命以後,とくに電気の導入によって材料に求められる性質は著しく多面的になってきた.

磁性も電気的性質と深く関係しているが,昔は羅針盤に使われる位だった磁石─磁性材料─を例に先端技術を考えてみる.

(1)磁性の温度依存性



 物質の分子レベルの性質として常磁性,反磁性の区別があり,常磁性は不対電子に基づくこと,反磁性は不対電子が存在しない証拠であることはp.172で学んだ.

常磁性体を,磁化率の逆数1/χの温度変化に基づいて分類すると図14-1のように細分される.



通常の常磁性体は絶対温度の減少に伴って直線的に減少し,絶対0度で0に近づく.強磁性体(フェロ磁性体ともいう)およびフェリ磁性体は,グラフに極小点があり(キュリー点という),それ以上の温度で前者は直線的に,後者は非直線的に1/χが増加する.

反強磁性体も極小(ネール点という)をもつが,それ以上の温度での直線を補外すると絶対温度O度の軸を切るようになる.

これらの温度依存性は,図14-2のような不対電子の配列と関係がある.



個々の原子・イオンのもつ不対電子が,結晶中でどのように配列するかによって温度依存性に差が現れる.

(2)磁性材料の分類



 磁性体を実用材料としての立場で見ると別の分類が必要である(表14-2).



軟磁性体は外部磁場に追随することが必要な場合に,硬磁性体は強い磁場を作り,しかもそれが外部から影響されないことが求められる場合に用いられる.

強力な磁性体をつくるには種々の元素を含む化合物がもちいられる.(映像)



次のページへ