2.希土類元素─ランタノイド




 先瑞材料にもとめられる性質を満足させる物質には,産出量の少ない希元素を含むものが多い.

自然界に存在する量の僅かな遷移元素が,生体機能の重要部分を担っていることは第12回で学んだが,希元素が人類にとって重要な役割を果たす例は先瑞材料の分野でも多い.

その代表例として希土類元素に着目しよう.

(1)ランタノイド元素



 原子番号57から71までの元素は周期表の3A族に属するが,通常の周期表ではひとまとめに書かれる.

ランタンに始まるこの15元素をランタノイド元素という.

3A族には21番スカンジウムおよび89番イットリウムもあり,これら17元素を希土類元素という.

ここではスカンジウム,イットリウムを含めて議論する.

3A族にはさらに89番アクチニウムに姶まる15元素アクチノイド元素があるが,これらのうち自然界に存在するのは92番ウランまでの4種にすぎず,人工的につくられた短寿命の放射性元素であり,希土類には含めない.

 ランタノイド元素の電子配置は,希ガス元素であるキセノXeを基準に考えるのがよい.

 54Xe Is22s22p63s23p63d104s24p64d104f05s25p65d0

 57La [Xe]4f05d16s2

 すなわちキセノン配置の外側に,4fを空で残したまま,5d,6s軌道に電子が入る.

そして58番セリウム以後は原子番号が増すごとに4f軌道に電子が満ちて行く.

ランタンをはじめランタノイド元素はすべて3+陽イオンをつくりやすいが,その時は5d,6s電子が失われる.

つまりLa3+の電子配置はキセノンと同じで,それ以後は原子番号の増加と共に,[]e]4fxという配置になるわけである.

この状況を表14-3に示した.



ここで上段と下段で原子番号順頃が逆に書いてあるのは,こうして書いた上段・下段で後述のf-f遷移に基づく3価陽イオンの色が同じようになるからである.)

スカンジウム,イットリウムも3価陽イオンからつくりやすく,電子配置はそれぞれアルゴンおよびクリプトンの配置と同じである.(いずれも無色)

(2)ランタノイド元素の相互類似性



 ランタノイド元素の化合物は互いによく似ているのが特色である.

例えばイオン化エネルギーはすべて5.4〜6.2eVの問にある.

その原因は外側電子配置が同じで,元素ごとの差は比較的内部の4f軌道で現れるからである.

そのため,3価イオンのイオン半径もきわめて類似しており,しかも原子番号が増加するにつれて減少する.(図14-3)



他の金属元素においては,同族元素がつくる同一電価のイオンは原子番号の増加と共に半径が増す.

ランタノイドだけ例外なのは,原子番号の増加に伴う原子核の正電価の増加によって電子が全体として引締められるからである.

電子数は増しても中の方の4f軌道に入って行くので,外に広がってイオン半径が増加することがない.

 半径最大のLa3+で1.061Å,最小のルテチウムで0.848Å,その差は0.213Åで,これはアルカリ土金属元素でいうと2価のストロンチウムとバリウムイオンの間の半径の差に当たる.

その間に18種のイオンがあるのだから,いかに差が僅かであるかが理解されよう.

イオン半径が似ているのに伴い,標準電極電位も互いに近い値をとる.

さらにEDTAのようなキレート配位子と錯体を形成する安定度定数もまたきわめて近い値をとる.

 希土類元素のうち3価以外の安定な陽イオンをつくりうるのは,58番セリウムの4価イオン,63番ユーロピウムと70番イッテルビウムの2価イオンである.

これらはそれぞれ4f0,4f7及び4f14の電子配置をもち,f軌道が空か,半分に満ちた状態及び全部満ちた状態に当たる.

(ほかに不安定な62Sm2+がある.)

こういう電子配置が安定であることはp軌道,d軌道の場合と同様である.(p.21,表1-4)

(3)希土類元素の、色



 表14-3に示した通り,3価ランタノイドイオンには色をもつものが多い.

(スカンジウム,イットリウムは無色)

これらの特色は吸収スペクトルの幅が狭いことである.

すなわちごく限られた波長の光だけを吸収し,ほんの少し波長が違うと全く吸収しなくなってしまう.

見かけ上同じ色にみえても,図11-4(p.168)に例示したコバル卜など遷移元素イオンの色とは異なる.

 こうした鋭い吸収スペクトルを示す原因は,ランタノイドイオンの可視光吸収が,4f軌道相互間の電子遷移に基づくためである.

4f軌道は7本からなり,原子が単独で存在する時にはエネルギー状態は同じである.(7重縮退)

しかし7本はそれぞれが別の方向に広がっており,配位原子との相互作用等によってエネルギーに差を生じる.

こうして生まれた軌道のうち低いエネルギーの軌道にある電子が,エネルギーの高い空軌道に移る際に光を吸収するのがf-f遷移と呼ばれる現象である.

ランタノイドイオンの4f軌道は外側を6s6p軌道で保護されたようになっており,他原子との間での熱振動などの影響を受けにくいため,幅の狭い鋭い吸収スペクトルを与える.

 この性質を利用して,希土類イオンを含むガラスは,分光器の波長較正用の標準吸収体に用いる.

また波長範囲の狭い鋭い光を発するので,各種発光体に用いられる.

テレビ受像機のプラウン管に塗布する蛍光体には希土類イオンを含むものが多く,特に赤色を与える蛍光体は希土類元素の利用によって著しく鮮やかになった.

また希土類イオンを含む結晶やガラスは強力なレーザー光を発する光源としても用いられる.

その実物およびレーザー発振の装置は映像によってみる.



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