2.有機強磁性体を求めて
有機化合物は低分子でも高分子でも大部分は反磁性体である.
有機化合物で常磁性を示すのは,不対電子をもつ遊離基に限られる.
(1)常磁性遊離基
遊離基は不対電子どうしが対をつくって反磁性分子になるものが多いが,共役二重結合をもつ場合などは安定に長時問存在しうるものもある.
図15-2に比較的安定な遊離基の構造例を示す.
強磁性体についてはp.209に詳しく説明したが,個々の分子が与える不対電子のスピンの方向が揃う必要がある.
固体無機化合物の結晶中ではスピンの方向が揃う可能性も大きいが,有機分子ではごく限られた場合だけにしか期待できない.
(2)ポリカルベン
その一つは1個の炭素原子上に2個の不対電子をもつ場合で,メチレン遊離基CH2:の誘導体である.
CH2:自身は寿命が10-5秒程度で,安定に存在しえないが,べンゼン環のメ夕位を架橋すると安定化する.
図15-3の化合物のうち,2配位炭素 >C:5個をもつものまでは安定化合物として取り出すことができ,期待どおりの大きい磁気モーメン卜に対応する磁化率を与えた.
しかしそれ以上に長い鎖を持ち強磁性を示すには至っていない.
これをつくるには,図のようにN≡N−側鎖をもつ化合物を実験室のガラス器具を用い合成しておいて,これを光分解させる.
(3)ポリジアセチレン
アセチレン基2個を持つジアセチレン誘導体は図15-4のような結晶をつくり,これが熱または光の作用で付加重合(p.87)すると,図のように方向の揃った炭素鎖をもつ高分子化合物を与える.
この側鎖R1の位置に遊離基を入れておくと,かなり多数の,方向の揃ったスピンを持つ化合物が期待できる.
ジアセチレン誘導体は表15-2のような4段階の操作で合成できる.
この方法も実験室のガラス器具を用い,あまり激しい条件を与えないで実現できる.
得られた高分子化合物は黒色の粉末であるが,通常の磁石に引き寄せられるほどの強い磁性を示す.
以上の各合成操作や,磁化率測定の実際善映像でみる.