2.半導体
(1)半導体(セミコンダクター)とは
導電率が室温で10-3〜10-10Ωcm程度の値を持ち,温度上昇とともに増加するような物質を呼ぶ。
半導体となるのは,ケイ素,ゲルマニウム,セレンなどの単体をはじめ,ヒ化ガリウム(電子工学ではガリウムヒ素という。以下も同様),アンチモン化インジウム,亜酸化銅などの無機化合物,第4回で述べたような有機化合物など種類が多い。
今日の電子工学では多種類かつ多量の半導体が用いられていて,整流,発光,電波発信,増幅,各種エネルギーの検知など広い分野で重要な役割を担っている。
それらに共通なのは高温で導電率が増加する電導性である。
その原因としては,絶対0度では電子が電子軌道(実際は原子や分子で考えられたような個々の軌道ではなく,次に述べるエネルギー帯になっているが)にぎっしりと詰まっていて,全く動けないが,熱・光などのエネルギーを受け取ると少しエネルギーの高い別の軌道(エネルギー帯)に移って動ける状態になり,しかも温度が高い方がその程度が大きいためと考えられる。
(2)エネルギー帯
固体の単体や化合物では,電子のエネルギーは軌道で示されるような一定の値を取るのではない。
(分子からなる固体で分子間力が小さい場合には,単分子の時の軌道がそのまま保たれることも多い。
ここでいう固体とはいわゆるディスクリー卜ではない固体で,分子レベルと分子集団レベルとの区別の無いものをいう。)
固体を造っている原子どうしの間の相互作用によって,原子の電子軌道は線の集まりではなく,一つの帯のように幅を持った状態に近似される。
これをエネルギー帯(たい)と呼ぶ。
この状態は図7-4(p.109参照)に示してある。
エネルギー帯についての詳しい説明は別の科目で扱われる。
(「物質の科学U」等)原子や分子の電子軌道にも電子の詰まったものと,空のものとあったように,エネルギー帯にも,空のものと電子の詰まったものとがある。
一つのエネルギー帯の中に,電子が一部だけ詰まっている時はその電子は自由に動けるが,帯いっぱいに詰まっている時は動けない。
これまで学んできたような,共有結合が働く固体(例えばダイヤモンド)では,電子が一杯に詰まった帯(価電子帯または充満帯という)と空の帯(伝導帯)との間のエネルギー差は大きくて,価電子帯にある電子は容易なことでは伝導帯に移れない。(ダイヤモンドでは5.2eV,1モル当りでは500kJmol-1・ダイヤモンドの結合エネルギーは約720kJmol-1。)
これらは絶縁体となるわけである。
電子の詰まった価電子帯と空の伝導帯とのエネルギー差が小さく,領域が重なってしまうのは金属の場合で,幅広い帯が生まれたことになり,その中で電子は自由に動ける。(図5-3(a),(b),図7-4,p.109)
両者の中間の場合が半導体に当る。
電子が一杯つまった価電子帯と空の伝導帯のエネルギー差(禁制帯幅)が小さく熱エネルギー程度の場合だと,温度上昇に伴って価電子帯の電子の一部は伝導帯に移り,自由に動けるようになって電流を導く。
熱エネルギーの大きさは,kTで示されるが,kはボルツマン定数1.3807×10-23JK-1で気体定数をアボガドロ定数で割った量に当る。
Tは絶対温度である。
(室温でkTは約4.1×10-21Jモル当りでは約2.4kJmol-1。)(図5-3(c))
このような原因で現れる半導体を真性半導体と呼び,高純度ゲルマニウムがその例である。
4B族元素について,周期表の上から下に移るにつれて単体の結合エネルギーが減少し,それに伴って禁制帯幅が減少する状態を表5-2に示した。
α-スズはきわめて小さい禁制帯幅をもつが,12℃でβ-スズ(金属的変態)に転移してしまうので,半導体としての性質は顕著には認められない。
(3)不純物半導体
実用に供されている半導体は,幾らかの不純物を含む。
ヒ素・アンチモンなど5B族原子がゲルマニウムのA4型格子点に入った場合はsp3混成を作っても電子が1個過剰となり,その状態はゲルマニウムの価電子帯の上に電子の詰まった別の帯を生じたと近似される。
(n型半導体,図5-3(d))
熱エネルギーを受け取ってこの不純物帯から伝導帯に移った電子が電流を導く。
ホウ素・ガリウムなど3B族原子がA4型格子点に入ると,sp3混成の四面体型共有結合を作った時,電子が不足する(電子不足状態を正孔という)。
これは図5-3(e)のように近似され,価電子帯にある電子の下部は熱エネルギーを吸収して,空の不純物帯に移って動けるようになり,固体は電動性を示す。
(p型半導体)
以上の状態を別の模式図で画くと図5-4のようになる。
真性半導体の場合は熱運動によって結合が切れ,生じた電子が動いて電動に寄与する。
n型及びp型半導体の場合はそれぞれ過剰の電子及び正孔が移動して電流を生じると考えればよい。
(4)V-V及びU-Y化合物
ケイ素やゲルマニウムが示すような半導体の性質は,周期表上で両者の両隣にある元素どうしが結合した時にも現れる。
例えばガリウムとヒ素,インジウムとアンチモンの組合せがそれに当たる。
これらの化合物はイオン結晶が著しく分極した固体ともみなしうるが,その構造は閃亜鉛鉱型と呼ばれる。
(第8回)各原子の周りには結合相手の原子が4個ずつ位置する(配位数4)という点ではケイ素やゲルマニウムのA4型と同じである。
これら化合物は周期表3B族と5B族の組合せという見地から,V-X化合物あるいはV-V半導体と呼ばれ,実用上重要な電子材料である。
またU族とY族の組合せでもセレン化亜鉛,テルル化カドミウムなどの閃亜鉛鉱型構造をもつ化合物半導体を与える。
これらはU-Y化合物,U-Y半導体という。これらの基本的性質を表5-3に示した。半導体に関する詳細は物質工学などの科目で取り上げられる。映像では簡単なダイオードの整流作用と発光現象を観察する。
安価で,ごく小型の半導体ではあるが,このような素子を作るには高度の技術と細心の注意が必要なのである。発光ダイオードは玩具や列車の表示などにも多く用いられており,日常生活にも関係深い。
(5)半導体の製造
真性半導体はもとより,化合物半導体でも電導度は結晶の純度に大きく影響される。
そのため精製が重要な過程となる。
不純物半導体を作るときも,いったん高純度の材料を作ってから改めて一定量の不純物を加える。
ケイ素を例にして精製方法をみよう。(図5-5)
原料のケイ石から得られた製品は純度が98%どまりである。
これを塩化水素ガスと熱してトリクロロシランSiHCl3(沸点33℃)に変え,蒸留を繰り返して精製する。
これを熱分解するとかなり高純度(99.99%)のケイ素が得られるが,これを帯域融解法によってさらに精製する。
帯域融解法にもいくつかの異なる手段があるが,よく用いられるのは浮融帯法である。
これは試料容器を用いることなく棒状ケイ素を融解し,加熱コイルを徐々に引き上げることによって下の方から再結晶させる。
融解物中の不純物は再結晶の時除外され,下方にできた結晶は極めて純度の高いものとなる。
上と下を適当な間隔で保持すれば,融解した帯状部分は自身の表面張力によって,流れ去ることはない。(映像,図15-5)