第1章 序論・気体の状態方程式



物質探求の方法論のおよそを概説し,次に,本論義が物質の反応と物性を対象とし,熱力学と統計論を基礎として物質の示す多様さを学ぶ目標を説明する.

最後に,物質の存在形態の基準となる気体の状態方程式の成り立ちを説明し,さらに,それを分子運動論によって掘り下げる.


1.物質探究の方法論

物質の科学は,物質の特質を原子分子のレベルで探求する学問分野である.

その主要な研究対象は,物質の構造,物性,反応に分類される.

物質の構造については,

(1)分子が化学結合によってどのように原子から構成されているか?

(2)結合の強さやその方向性にどんな規則性があるか?

(3)原子分子が集合して形成される液体や固体はどんな構造をとるのか?

などなどの疑間の解明を課題としている.

これらの問題に答えるためには,物質構造の基本となる原子の振る舞いを原子核と電子,また,電子同士の相互作用から出発してときおこす必要がある.

また,分子を構成する原子向士の結びつきも基本的に同じ立場で解明できる.

それは微視的(ミタロな)方法論に基づく科学である.原子核や電子の連動を記述するのは「量子力学」である.

それは,巨視的(マクロな)物体の運動を記述するニュートンの力学とは基本的に違っている.

量子力学を化学の対象に応用する学問分野を、「量子化学」と呼ぷ.分子の構造や反応性の探求の基本は,量子化学にあるといってよい.

放送大学授業科目「物質の科学・量子化学」がこれに当たっている.

 われわれが直接に観測できるのは多数の原子分子の集合体である.

(1)集合体はどんな状態をとるのか? 固体・液体・気体のどの状態をとるのか?

(2)どんな温度でどの位の熱エネルギーによって状態変化をするのか?

(3)集合体はどの位固いか? 弾力性はどうか? 電気抵抗はいくらか?
などなどの疑問に答える学問分野が物性研究である.

その方法論には二つある.

ミクロな原子分子が集合してマクロな性質をもたらすという立場の方法論で,それは「統計力学」である.

一方,物質の存在形態を温度や圧力などのマクロな量の関数としてとらえる考え方もあって,それは「熱力学」の方法である.

 一方,物質は変化する存在でもある.われわれの身の回りにある物質は,生成と消滅のバランスの上に成り立っている.

その根底にあるのは,化学反応である.

ある物質から他の物質へ変化する化学反応を支配する本質を探る学問分野が「化学反応論」である.

それは,量子化学,統計力学の手法に時間の因子を加えた道具立てを使う.

 本講義は,「物質の科学・量子化学」と対をなす科目で,同科目は物質の構造をミクロな立場から理論的実験的に追求することを目標にしている.

一方,本講義では,物質のマクロな性質とその反応性を学ぷ予定で,表1-1のような講義配置となっている.

構造と反応・物性は相互に強く関連している学習対象であるから「物質の科学・量子化学」も合わせて学ぶことを希望する.




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