13 大気の化学
大気の化学においては太陽光による大気分子の光化学や光分解によって生成したフリーラジカルの反応が重要である.
本稿では化学反応の立場から見た成層圏オゾンの生成機構と近年話題になっているフロンによるオゾン層破壊の問題,さらには対流圏化学において重要な光化学オゾンの生成機構について解説する.
特に微量なフリーラジカルが大気中の反応に大きな寄与をもたらしている連鎖反応についても指摘を行っている.
1.大気の化学とは
大気の化学(atmospheric chemistry)とは,大気中の分子の起源〔大気中への放出〕,その化学反応および大気圏からの消滅(乾性・湿性沈着,海洋への溶け込みなども含む)〔主に反応〕,大気中での濃度分布(高度分布,経・緯度分布,季節変動など)〔蓄積〕を研究する化学である.
現在はとりわけ大気中の微量気体に関する前記の研究がその中心である.
大気中には自然起源や人為起源のさまざまな気体が含まれているが,その主成分である窒素,酸素,および量不定の水蒸気を除いた存在量の少ない気体を微量気体(trace gas)という.
表13-1に地上付近の大気組成を示す.
微量気体は表に書いていないが,たとえばメタン以外の炭化水素(非メタン炭化水素,NMHC),NOX(NO,NO2),アルデヒド類,アンモニア,硫黄化合物(SO2,CS2,COS,H2S等)クロロフルオロカーボン(CFC,フロンとも呼ばれる),等々数百種にのぼる.