3.熱力学第一法則




物質を構成する原子分子の運動が熱の本質である.

図2-1に示すように物質系の状態変化の際に外界とやりとりするのは熱だけではなく,系の体積変化にともなう仕事がある.

図2-2のようなピストンの運動を考える.
ピストンが内圧と外圧が等しい条件でだけ移動した際に行う仕事は,

          (2.1)

である.

ここで,はピストンの表面積で,体積の増加分はである.ここで



となる.

膨張では,系は外界に対して仕事を行うので,仕事は負で,圧縮ではその逆となる.

熱の移動の場合も同様で,系へ熱が移動するとき,系から外界へ移動するとき である.

 熱と仕事が等価であることは,ジュール(J.P. Joule)とマイヤー(J.R. von Mayer)によって提案され,これがきっかけとなってケルビンやクラウジウス(R.J.E. Clausius)らによって熱力学の大系が築かれた.

19世紀半ばのことである.

系に加えられた熱と仕事は,系のエネルギー,実質的には,原子分子の運動エネルギーを高めることになる.

そのエネルギーを内部エネルギーと呼ぶ.

したがって,熱と仕事の移動によって内部エネルギーの変化は,

          (2.2)

となる.

これが熱力学第一法則である.

第一法則は,力学におけるエネルギー保存の法則を熱の移動を含む場合に拡張したものである.

摩擦などによって熱が発生する場合,仕事の一部が熱となって力学的エネルギーは保存されない.

熱を含めればエネルギーは保存される.

 いま,仕事として系の体積変化だけを考えることにする.力学第一法則は

          (2.3)

である.

ここで,系の体積を一定に保つ条件下では,

          (2.4)



である.また,新しい状態量のエンタルピー

          (2.5)

を定義する.

すると,圧力一定の条件下では,



であり,熱力学第一法則は

          (2.6)

となる.

われわれは,物質を一定圧力,たとえば,大気圧下で観察することが多いので,内部エネルギーよりも体積変化にともなうエネルギー変化をとり入れたエンタルピーの方が,系のエネルギー変化を考えるのに便利である.

ちなみに,エネルギーとエンタルピーの語源はギリシャ語でそれぞれ「仕事」と「温まる」という意味をもっている.


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