4.二成分系の液相−固相平衡




●二成分が任意の割合で溶け合う場合の融点図



 二成分の液相−固相平衡の温度−組成図を融点図という.

二つ以上の成分が均一に混じり合った固体を固溶体(solid solution)という.

二成分が固溶体を作る例としてニッケル−銅系の融点図を図7-8に示す.



Lと記した領域は液相(溶液)が,Sの領域は固相(固溶体)が存在する.

上の曲線は液相の組成と凝固点の関係を示す液相線(凝固曲線),下の曲線は固相の組成と融点の関係をしめす固相線(融解曲線)である.

二つの曲線に囲まれた領域(L + S)では液相と固相が共存する.

二つの相が共存するときは自由度1であるから温度を指定すれば各相の組成が決まる.

点Mの温度では,水平線が固相線,液相線と交わる点SとLの組成がそれぞれ固相と液相のそれである.

 いま,Pの組成温度の液体状態の溶液を冷却する.

すると,液相線と交わる点Aで凝固を始める.

その際析出する固溶体は の組成である.

さらに冷却を続けると液相の組成はA→Bの変化をし,これに応じて固相の組成はのように変わる.

の温度で固相のみとなる.

●二成分が固相で溶け合わない場合の融点図




 液相では二成分がどんな割合でも溶け合うが,固相ではまったく溶け合わない場合としてカドミウムとビスマスの二成分系の融点図を図7-9に示す.

Lと記した領域ではカドミウムとビスマスの溶液が存在し,ではカドミウムの固体と溶液が,ではビスマスの固体と溶液が共存する.

また,ではカドミウムの固体とビスマスの固体がともに共存する.

AEとBEの曲線は液相の組成と凝固点の関係を示す液相線である.カドミウムの液体はA点で凝固するが,これにビスマスを溶かすと凝固点はAEの曲線に沿って低下する.

BEの曲線はビスマスにカドミウムを溶かした溶液の凝固点を示す.

 図7-9のP点の組成の溶液を冷却すると,Q点で固体のカドミウムが析出し始める.

すると残りの溶液はビスマスにより富むようになり,Q→Eの方向に変化する.温度が水平線のそれに達すると,二つの成分の微小な結晶の混じり合ったものを生じ,全体が凝固する.

三相(液相と二つの固相)が共存するので,温度と組成が指定される.

液相の組成はE点で与えられ,共融点または共晶点という.共融点で析出する固体は二成分の結晶の混合物で,共融混合物または共晶という.

 共融点の組成をもつ溶液を冷却すると,E点に達するまでは液相,E点で全部が凝固して共融混合物となり,その間温度は一定である.逆に,これを熱するとE点で全部が液体となる.

●含氷晶と寒剤




 水と塩類の二成分系の融点図には,共融点が現れることが多い.

共融点で共存する三つの相の中に氷が含まれるので,それを氷晶点と呼び,共融混合物を含氷晶という.

図7-10に水−塩化アンモニウム系の融点図を示す.

これは図7-9と基本的に同じである.

曲線AEは水の凝固点降下を表し,溶液と氷が共存する.

一方,曲線BEは塩化アンモニウムの水に対する溶解度の温度変化を表す.

つまり,塩化アンモニウム結晶と溶液が共存する.

E点が共融点で,溶液・氷・塩化アンモニウム結晶が共存する.

この点が塩化アンモニウム水溶液が存在し得る最低の温度である.

この温度で系全体が固化し,氷と塩化アンモニウムの微小な結晶が密に混じり合ったものとなる.

 氷と塩化アンモニウムを0℃付近で混合すると,それは平衡状態にないので氷は融解し,塩は融けた水に溶解する.

そこで融解エンタルピーと溶解エンタルピーを周囲から奪うので,温度は低下する.

氷と塩化アンモニウムの割合が共融点の組成となっていればその温度 -15.8℃まで低下する.

この現象を利用して寒剤として用いられる.寒剤の達し得る最低温度は共融点の温度である.

●鉄−炭素系の融点図



 多成分系の固体の状態図(融点図)が一番応用されるのは,合金である.

それらは複雑な融点図を示す.

図7-11は鋼である鉄−炭素系の融点図である.



純粋な鉄が常温で安定な相はα鉄で体心立方構造をもつ.

それは906℃で面心立方構造のγ鉄に転移する.

γ鉄は1401℃で再び体心立方構造のδ鉄へ転移し,δ鉄は1528℃で融解する.

 図7-11の鉄−炭素系の融点図で,炭素の質量百分率が6.67%に相当する鉄の炭化物の化学式はFe3Cでセメンタイトと呼ばれる.

αやγと書いた領域はそれぞれα鉄,γ鉄と炭素の固溶体である.

前者はフェライ卜と呼ばれている.

温度721℃の水平線上にはγ固溶体,沈固溶体とFe3Cの固相が共存する点のFがある.

炭素の質量百分率0.8%のγ固溶体をゆっくり冷却するとな固溶体とFe3Cの固相が層状となって析出する.

その共析晶の断面が真珠貝のようなのでパーライトと呼ばれる.

鋼は炭素の質量百分率が1.7%以下で,この組成のものを加熱し,均一なγ固溶体とし,これを冷却する仕方によっていろいろ性質の異なる鋼を作ることができる.


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