8 相転移
相転移は分子の形,分子間相互作用,分子運動の三つの微妙な協奏効果によって起こる.
分子間にどのような相互作用が働いているか,分子がどのような運動をしているかを知るには,相転移を調べるのが手っ取り早い.
相転移がなぜ起こるのか,相転移にはどのような種類があるかを学び,いくつかの代表的な相転移について具体例を学ぶ.
1.相転移はなぜ起こるか
氷は1気圧のもとで0℃で融解する.
きわめて日常的な現象だが,氷がなぜこの温度で融けるかを正しく説明するのは意外に難しいことなのである
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「氷のギブズエネルギーが0℃で水のギブズエネルギーと等しくなるので融解する」という説明は,熱力学的には間違いではないが,ギブズエネルギーの内容が分子論的に記述できなければ,なぜ融解が起こるのかを説明したことにはならない.
融解は固相から液相への等温変化であり,相転移または相変化と呼ばれている.
相転移が起こるのは物質の3態間のみではなく,たとえば物質の電気抵抗がゼロになる超伝導転移や磁石になる磁気転移など,実に多くの物質が固体状態で相転移を起こしている.
また液晶のように液体状態で相転移を起こす例も数多く知られている.
ある温度,ある圧力で分子がどのような凝集状態をとるかは,分子の形,分子間相互作用,分子運動の三つの微妙な協奏効果によって決まる.
相転移が起こるメカニズムを明らかにするには,これら三つの要因を取り入れた分子レベルでの物性理論を必要とする.
しかし複雑な現実を簡単なモデルに置き換えなければならないので,相転移の機構解明は現在でも未解決の部分が多い難問である.
最近は,コンピューターを用いた分子ダイナミックスによるシミュレーションも盛んに行われている.
一定の温度で圧力変化により相転移が起こることもしばしばあるが,ここでは圧力一定のもとでの温度変化による相転移に限ることにする.
相転移は,昆虫の卵が孵化し,幼虫・さなぎを経て成虫になるように,一つの相が熱エネルギーを得て昇温してゆく過程で,もはや同一の相を保ち得なくなり,破局を迎えたことに対応する.
相転移を,社会における革命にたとえることもある.
分子間にどのような相互作用が働いているか,分子がどのような運動をしているかを知るには,相転移を調べるのが手っ取り早いことが多い.