3.高分子の一次構造と二次構造



 モノマーが多数つながったポリマーができるとしただけでも,図9-1のようにいろいろな構造がある.

ここでは一次構造として重要な立体規則性と分子量分布についてまとめる.

 まず,比較的単純なモノマーとして,プロピレン(CH2=CH2-CH3)を

               ●
               |

考える.

これを,図9-5のように〇−〇とメチル基を●で表現したとする.




すると,プロピレン分子は,二重結合に関して,メチル基がついた頭と,ついていない尾の部分からなっている.

従って,プロピレンが重合した場合,頭と尾が結合した部分と,頭と頭が結合した部分があり得ることになる.

実際にはメチル基どうしの立体障害のため,頭−尾結合が大部分である.

しかし,ある種のモノマーでは,頭−頭結合や,尾−尾結合が頭−尾結合の割合に比較して無視できないこともある.

次に,すべてが頭−尾結合であったとしても,分子鎖の -C-C- 結合をすべてトランスとしたとき,メチル基が図9-5のように,ランダムについている場合(アタチック),交互についている場合(シンジオタクチック),一方についている場合(イソタクチック)がある.

これを分子鎖の立体規則性と呼ぶ.私達が通常目にするポリプロピレンはイソタクチックタイプで,結晶性であるが,アタクチックタイプは結晶化せず無定形であり,室温ではゴム状になる.

また最近,シンジオタクチックタイプを与える触媒も開発されている.

これらの立体規則性が異なると,同じポリプロピレンでも全く違う物性を示す.高分子鎖の構造は,立体的に考えなければならない.

 高分子鎖は,長いひも状分子であるが,どの位長いか,長さにどんな分布があるかも重要な情報である.

そこで,いろいろな分子量を定義している.

今,M0をモノマー単位の分子量,xを重合度,重合度xの高分子の数をNxとすると,重合度工の高分子の分子量Mxては,xM0なので,
数平均分子量

    (9.1)

ここでは,xが1以上のものすべてについての和を意味する.
(b)重量平均分子量

          (9.2)

(c)3次のモーメントをとったz平均分子量

          (9.3)

 分子量に分布がなく,すべてそろっていれば,となるが,分布があると,になる.
通常は,を分布の目安としている.

単純な例として以下の仮定をしてみる.
1) 同種モノマーが反応して高分子を生成
2) モノマーが反応して高分子生成の方向にゆく確率を
3) 反応しない確率を1−

すると,重合度xの高分子ができる確率は,

               (9.4)

についてすべての和をとると,なので,

          (9.5)

となる.

このため,は,横軸をxにとれば,縦軸に重合度xの分子が存在する確率になっている.

そこでを重合度xの高分子の最確分布(most probable distribution)と呼んでいる.

このとき,重合度xの高分子の総数Nxは,系の中に存在するあらゆも重合度の高分子の総数をNとすれば,

            (9.6)

なので,この系の数平均分子量は,をモノマーの分子量として,

           (9.7)

となる.

同様に,

            (9.8)
          (9.9)

となる.

が1に近いと,

          (9.10)

になる.

 一般的には,高分子の分子量分布は,図9-6のようになっている.

ここで粘度平均分子量は,高分子溶液の粘性から求める分子量である.

最近では,リビング重合*などにより,が1に近く,分子量がそろった高分子も作られるようになってきている.

こうして高分子鎖の一次構造が決まったとしても,その長い分子鎖がどういう形態をとるかは大きな問題で,結晶していないときは図9-3下図のようなランダムコイル状態になるが結晶中では,図9-3上図のように伸びきった状態,またポリプロピレンのような場合は,側鎖のメチル基の立体障害のため分子鎖がへリックス構造をとってらせんを巻いたりする.

このような構造のことを二次構造と呼んでいる.

*停止反応および移動反応が無視できる重合反応.通常迅速な開始と,緩慢な成長よりなる.成長末端はモノマーが消費された後も活性である.



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