4.高次構造



 私達の目にふれる高分子は,多くの高分子鎖が凝集したものであるが,それらは,系全体の自由エネルギーを極小としようとして,実に多くの構造を形成する.

これを高次構造と呼ぶが,ここではいくつかの代表例を紹介する.

●結晶構造


結晶構造は,分子鎖内と分子鎖間のポテンシャルエネルギーを極小にする条件で決まると考えられる.

ポリエチレンのような場合についてシミュレーションすると,図9-7のような結晶構造が得られ,X線回折の結果ともよく対応している.



しかし,高分子鎖の構造が複雑になると,ポテンシャルエネルギーにいくつもの極小が現れる.

実際,ポリフッ化ビニリデン のような場合は,多くの結晶構造が結晶化条件によって現れる.

これを結晶多形(polymorphism)と呼んでいる.


次に,図9-7のように伸びきった高分子鎖がどこまでも続くかというと,なかなかそうはならない.

実際に,ポリエチレンをパラキシレンに,O.01〜0.1%高温で溶かし,80℃付近で結晶化させたものの電子顕微鏡写真をとると,図9-8のようになる.

一辺が10μm位のひし形で,厚さ数10 nmの薄い単結晶が得られる.

このとき,分子鎖の方向はひし形面に対して立っており,分子鎖は折りたたまれている.

分子鎖の折りたたみがどのように起きているかは,現在でもはっきりわかっていないが,主鎖の構造がその部分では,トランス(T)ばかりでなく,ゴーシュ(G)を入れて,GGTGGのようになっているとされている.

図9-8の写真で,ひし形が盛り上がっているように見えるのは,折りたたみによる表面のエネルギー増加を避けるためとされている.

 高分子を溶融状態から結晶化させると,ビデオ教材で示したような球晶が生成する.

球晶を形成する各部分は図9-9に示すような薄片状の結晶である.

それが次々に分岐して球晶となっている.

まだビデオ教材の球晶に現れた同心円状の縞模様は,薄片状の結晶(ラメラと呼ぶ)が,捻れながら成長したために現れたものである.

球晶のラメラ間には,結晶化できなかった分子鎖,ひとつのラメラから別のラメラにつながった分子鎖などが存在していると考えられている.





●非晶の構造



高分子は,結晶構造だけではなく,液体状態が凍結したようなランダムな非晶構造もとる.

特に分子鎖に規則性が乏しいアタクチックなポリマーや,ランダム共重合体などによく見られる.

また結晶性の高分子でも,溶融状態から急冷すると結晶化する時間がなく,非晶構造をとることがある.

実例としては,アタクチックポリスチレンや,アタタチックポリメタクリル酸メチル,ポリカーボネートなどが知られている.

この状態のグラフィックスは,ビデオ教材のようになっており,分子鎖が密につまった部分と,そうでない部分が共存していると考えられている.

逆に,分子の周辺に空間(自由体積)が存在し,それに揺らぎがある状態とも見なすことができる.

 以上に説明した構造を,2次元モデルでまとめると,高分子鎖の集合形態は図9-10のように書ける.



●高分子液晶


 低分子の場合,結晶状態と液体状態の中間に液晶状態が現れる例が知られている.

これは特に棒状の低分子に現れるが,高分子も棒状で剛直な分子では,高分子液晶状態となる.

代表例として,ポリ−−フェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶かした系がある.



液晶状態で紡糸し,溶媒を除くと,分子鎖が高度に配向した高弾性率,高強度の繊維が得られる.

高分子鎖の分子鎖方向の結合は共有結合なので,スチール並みの弾性率でそれより高強度の繊維となる.

高分子の比重が小さいことを利用して,長大橋のつり橋建設時のパイロットロープとしても利用されている.

●相分離構造など


 この他に,高次構造の例として,異種の高分子鎖がミクロに共存した高分子多成分系であるポリマーアロイの相分離構造の研究が盛んである.

たとえば,ポリマーブレンドを相溶状態から相分離状態にしたときに起きるスピノーダル分解による相分離構造,ブロック共重合体に現れるミクロ相分離構造などがある.

これらは,系の自由エネルギーを,高分子鎖の特徴を考慮に入れて極小化するという条件で,かなり理解されつつある.


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