教材制作の舞台裏
初修外国語のポータルサイトは、まだフランス語とインドネシア語のみですが、中国語は素晴らしいDVD教材があり、近いうちにウェブ・ヴァージョンを立ち上げる予定。本年度の新企画はベトナム語です。このところ、エッセイやインタビューなどで、IT教材を何度か話題にしており、質問を受けますので、手短に「舞台裏」のご報告を。
「あんな綺麗な映像や画像、自分で撮ったのですか?」と訊かれます。わたしはメカの音痴だし、だいいち渋谷から先に行くと迷子になってしまう人間です。フランスの北西海岸にある自然製塩の町ゲランド、南西部の城塞都市カルカッソンヌ、そして北アフリカのフランス語圏マリ共和国を一夏でまわるなんて、まさか!
取材に当たったのは、わたしが東京大学にいたとき学生だった若手研究者たちです。たとえば移民問題をやっている人が撮ってくれた1枚の写真。これで「お母さん」mère 「赤ちゃん」bébé というフランス語の単語を学ぶことに、違和感を覚える人がいるとすれば、そこでもう異文化理解の新しいステップが踏みだされたことになる。(画像をクリックすると大きく表示されます)
<マリ共和国の母子>
教師はヨーロッパによる世界の植民地化と宗主国に強制された共通語としてのフランス語という言語政策の話題も提供できるけれど、もっと率直にアフリカの魅力について語ることもできるでしょう。「フランス語を学ぶことで世界に向けて新しい窓を開こう」という呼びかけは、シャンゼリゼをご案内します、という意味ではありません。ちなみに、マリ共和国の取材をしてくれたのは女性研究者で、このお母さんは行商人。頭にモノをのせて歩く女性は、立ち姿が美しいですよね。赤ちゃんの足、確認できましたか?
フランスの国内をめぐるサイトを考案中です。最初のスポットは「シュヴァルの理想宮殿」――のどかな田園の小径を黙々とあゆむ郵便配達夫を想像してください。その人物が、ある日、こんな奇妙な形の石に躓いた。それで、綺麗な石を集め、石工になって、夢の宮殿を造ろうと思い立ったというのです。
<オートリーヴ郊外> <つまずきの石> <理想宮殿>
19世紀末はフランス第三共和政の基盤ができた時代です。平凡な市民のファンタスム(夢想・想念)と、その人物が使った日常の言葉とを、画像と音声をとおして甦らせようという企画。中級レヴェル「言葉と文化」の教材です。